名目GDPが600兆円を超えた。増えたのは、モノやサービスの量か、値段か
この記事で分かること
- 2019年から2025年に、日本の名目GDPは約16%増えましたが、実質GDP(量)は約2%増えました
- 個人消費も、実質個人消費(買った量)は2019年とほぼ同じで、名目個人消費(払った金額)が約15%増えました
- その値段には輸入品の値段も入ります。ただしGDPでは輸入の代金を差し引くので、輸入の値上がり(円に直すと多くは為替の分)は名目GDPを増やしません
- 輸入の値上がりが大きいと、国内の所得の一部が海外へ流れます(交易損失)
2025年2月、内閣府は2024年の名目GDPが600兆円を超えたと、1次速報で公表しました(609.3兆円)。ニュースで「GDP 600兆円」を見ても、買い物かごの中身が増えた感じはしない――そう感じる人もいると思います。
結論
- GDP:2019年から2025年にかけて、名目GDPは約+16%増えましたが、実質GDPは約+2%でした
- 個人消費:名目個人消費は約+15%増えましたが、実質個人消費は2019年とほぼ同じでした(±0%)
(内閣府 国民経済計算。2025年は2次速報で、12月の確報で変わりえます) ※数字は国全体の量で、1人あたりではありません(この間に人口は約2%減りました)
では、上がったのは何の値段でしょう?

数字を表で見る
| 2019→ | 金額(名目) | 量(実質) |
|---|---|---|
| GDP | +16% | +2% |
| 個人消費 | +15% | ±0% |
出典:内閣府 国民経済計算。実質GDP・実質個人消費は2020年基準。2025年は2次速報で、確報で変わりえます。数字は国全体で、1人あたりではありません(この間に人口は約2%減。総務省 人口推計)
1. まず、暮らしで買うものの値段が上がった
2019年から2025年にかけて、私たち家計が買うものの値段を表す個人消費デフレーター(値段の水準を表す指数)は約15%上がりました(2019年10月の消費税率の引き上げの分も含みます。大きさは分けていません)。
その値段には、海外から買うもの(輸入品)の値段も入っています。ただし、GDPは国内で生み出した分だけを数えるので、海外から買ったものの代金は差し引きます。輸入品が値上がりすると、名目個人消費は増えますが、差し引く輸入の金額も同じだけ増えるので、名目GDPはその分では増えません。GDPデフレーター(GDPの値段の水準を表す指数)は、輸入を差し引いた、国内で生み出したものの値段です。
この記事の期間のうち2022〜2024年について、日本銀行は消費者物価が+8.7%上がったうち、+4.7%分は輸入物価の直接の波及だった、と分析しています(2026年1月の展望レポート)。
2. 輸入品の値段は円で大きく上がった。その多くは円安の分
企業が海外と取引する値段(日本銀行の企業物価指数)を見ると、2019年から2025年にかけて、輸入物価指数は、契約した通貨のまま(契約通貨ベース。ドルなど外貨建ての契約は外貨のまま、円建ての契約は円のまま)で約11.5%、円に直すと約42%上がりました。輸出物価指数も、契約通貨ベースで約10%、円に直すと約35%です。2019年から比べると、円に直した値上がりのうち約7割が為替(円安)の分でした(当メディアの試算。日本銀行 企業物価指数から算出)。

数字を表で見る
| 2019→ | 契約した通貨のままの値段 | 円に直した値段 |
|---|---|---|
| 輸入の値段 | +11.5% | +42% |
| 輸出の値段 | +10% | +35% |
円に直した値上がりの約7割が、為替の分。日本銀行 企業物価指数(総平均、暦年の平均)。契約した通貨のまま=外貨建ては外貨、円建ては円。約7割は当メディアの試算(円に直した値上がりのうち、契約した通貨のままの値上がりを除いた分)
3. 国全体の所得のうち、海外へ流れる分(交易損失)は増えた
輸入の値段が輸出より大きく上がると、輸出品1つで買える輸入品が減った分(輸出と輸入の値段の比である交易条件が悪くなった分)、値段の変化を除いた国全体の所得(実質GDI)が目減りします。これを「交易損失」と呼びます。内閣府の国民経済計算(2020年基準)によれば、交易損失は2019年の約4.9兆円から2025年の約7.3兆円へ広がりました。途中の2022年には約17.6兆円まで広がった年もあります(2020年の交易条件を基準にした額で、基準の年を変えると額も変わります。年どうしの増減を見るための数字です)。

数字を表で見る
| 年 | 交易損失の額(兆円) |
|---|---|
| 2019年 | 4.9 |
| 2022年 | 17.6 |
| 2025年 | 7.3 |
出典:内閣府 国民経済計算(2020年基準)。2025年は2次速報。額は2020年の輸出入の値段の関係を基準に計算。基準を変えると額も変わります
内閣府は、交易損失の拡大は「海外への所得移転の増加」を意味し、実質国内総所得(実質GDI)を「下押しする」と分析しています(令和7年度 年次経済財政報告)。
4. では、日本の輸出はどうでしょう
2019年から2025年にかけて、実質輸出は約11%増えました。ただし中身は、財の実質輸出が約6%、サービスの実質輸出が約29%です。サービスの輸出には、訪日客が日本で使ったお金が「非居住者家計の国内での直接購入」として数えられており、この額は2019年の約4.6兆円から2025年に約7.5兆円(実質)へ増えています。
内閣府は、日本は値段が変わっても買われやすい財やサービスを相応に輸出している、と推定しています。ただし内閣府自身、日本企業が現地通貨建ての値段を据え置いている可能性とは、この推定だけでは区別できないと書いています(令和7年度 年次経済財政報告)。
では、値段で増えた金額は、誰の手元に残っているのでしょう。これは次の記事で扱います。
後半(参照用)
言葉
- 名目値と実質値:名目値=実際に取引された金額。実質値=値段の変化を取り除き、量の変化だけを表した値
- デフレーター:名目値を実質値で割って求める、値段の水準を示す指数
- 契約通貨ベースと円ベース:契約通貨ベース=実際の取引に使った通貨(多くはドル建てなど)での値段。円ベース=契約通貨ベースを為替レートで円に換算した値段
- 交易条件:輸出の値段と輸入の値段の関係(比率)。輸入の値段が輸出より相対的に上がることを「交易条件の悪化」と呼びます
- 交易損失(交易利得):交易条件の変化が、実質GDIに与える影響を金額に換算したもの。マイナス=輸入の値段が輸出より相対的に上がり、実質GDIが目減りしたことを示す
- 訪日客の消費がサービスの輸出に数えられる理由:国民経済計算では、非居住者(訪日客)が国内で行った消費を「非居住者家計の国内での直接購入」として、サービスの輸出に含めて扱う約束になっています
参考:2019〜2025年より後の分析(2026年)
この記事が比べる期間(2019〜2025年)より後、2026年に入って起きたこと(中東情勢による原油価格の上昇、AI関連需要の拡大)についての日本銀行の分析です。記事本文の数字とは対象の時期が異なります。
- 日本銀行は2026年4月の展望レポートで、原油価格の上昇による「海外への所得流出」を、一定の仮定を置いた試算として、2026年度平均でみて原油だけでGDP比0.5%程度、関連する輸入資源や基礎化学製品を含めるとGDP比1.4%程度としています
- 日本銀行は2026年7月の展望レポートで、2026年の中東情勢に伴う交易条件の悪化のなかで、改善しているのはAI関連需要で好調な一部の製造業大企業にとどまる、と分析しています
前提と方法
- 比べる起点は2019年(2020年はコロナで量が落ちた年で、起点にすると伸びが大きく見えるため)
- 2010〜2024年は内閣府 国民経済計算の確報(2020年基準)、2025年は2次速報(確報は2026年12月中旬以降公表予定で、変わりえます)
- 実質値は連鎖方式(2020暦年基準)。内閣府の注記により、実質の内訳の合計は実質GDPと一致しない場合があります
- 企業物価指数の年平均は、日本銀行公表の月次値をリサーチャーが単純平均したもので、日本銀行公表の暦年平均の確定値とは丸め・算出方法が一致しない可能性があります
- 「600兆円を超えた」という事実は版によって異なります。2025年2月公表の2024暦年1次速報では609.3兆円でしたが、2025年12月の基準改定(2015年基準→2020年基準)を経た確報では、2023暦年に遡って616.0兆円です。本文では2024暦年・1次速報の値(609.3兆円)を使っています
- 人口の変化:総務省の人口推計によれば、総人口は2019年10月1日時点で1億2,616万7千人(確定値)、2025年10月1日時点で概算値ながら1億2,321万人でした(約2%の減少。確定値と概算値という精度の異なる値どうしの比較のため、幅をもって読んでください)。本文の「量」は国全体の量で、1人あたりの量ではありません
- 2019年10月の消費税率引き上げ:2019年10月1日、消費税率は8%から10%に引き上げられました(酒類・外食を除く飲食料品等は軽減税率で8%のまま)。税率の引き上げは、消費者が払う値段を押し上げる方向に働きます。この記事の起点である2019年の実質民間最終消費支出(季節調整済)は、引き上げ直前の7-9月期に312,553.7(10億円)でしたが、引き上げ直後の10-12月期には301,371.2(10億円)に減っています。この系列は季節調整済みですが、消費税率引き上げという一回限りの制度変更の影響そのものを取り除いた値ではありません
- 「為替の分」は、円に直した値上がりと契約通貨ベースの値上がりの差が、円に直した値上がりに占める割合です(分け方を変えても約7割)。これは外貨建ての契約を円に直した効果で、円建ての契約の値段に為替が及ぼした影響は分けられません。輸入の契約の約3割、輸出の約4割は円建てです(2025年12月、日本銀行の契約通貨別構成比)
- 本文の「個人消費」は、内閣府の表では「民間最終消費支出」です。増減率は、内閣府の年ごとの金額から当メディアが計算しました
- 円に直した値上がりのうち為替の分の割合は、比べ始める年によって変わります(指数の分解の仕方によります)。この記事では2019年を起点にした値だけを使っています
断定できないこと
- 個人消費デフレーターの上がりのうち、輸入の分がどれだけか(2019〜2025年の6年間について分けた数字はありません。日本銀行の分析は2022〜2024年の局面を対象にしたものです)
- 契約通貨ベースの値上がりの中身が、企業の値上げによるものか、世界相場の値上がりによるものかは、この数字だけでは分けられません
- 内閣府の推定(値段が変わっても買われやすいものを輸出)には限界があり、内閣府自身、現地通貨建て価格を据え置く値付け戦略との区別ができないと書いています
- 日本銀行の試算(産業連関表〈2020年時点〉による波及の試算)には、AI関連財の拡大に伴う産業構造の変化を十分に織り込めていない可能性があるという、日本銀行自身の限定があります
- 交易損失の額は、基準となる年を変えると変わります
出典
- 内閣府 国民経済計算:2024年度確報(主要系列表1、暦年・名目/実質/デフレーター) https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2024/tables/2024fcm1n_jp.xlsx / 2025年10-12月期2次速報 https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2025/qe254_2/gdemenuja.html / 形態別内訳 https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2025/qe254_2/tables/kgaku-mcy2542.csv / 2024年10-12月期1次速報(600兆円到達の一次公表値) https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2024/qe244/tables/gaku-mcy2441.csv
- 内閣府 「令和7年度 年次経済財政報告」第3章第1節 脚注29 https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je25/pdf/p030001.pdf
- 日本銀行 企業物価指数(CGPI)一括ダウンロード https://www.stat-search.boj.or.jp/info/dload.html / 接続指数 https://www.stat-search.boj.or.jp/info/cgpilink1.csv
- 日本銀行 「経済・物価情勢の展望」背景説明 2026年1月(BOX3、p.43-45)https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2601b.pdf /2026年4月(BOX1、p.41-43)・2026年7月(BOX2、p.45-46) https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/index.htm
- 内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算の2020年(令和2年)基準改定に向けて」 https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/seibi/kouhou/pdf/2020kijun/20251119announce.pdf
- 総務省統計局「人口推計(2019年10月1日現在)」https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2019np/index.html /「人口推計(2025年10月報)」https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202510.pdf
- 国税庁「消費税率等に関する経過措置について」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/pdf/01.pdf /財務省「消費税率引上げについて」https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/consumption_tax/index.html
(数字は公表されている統計をもとにしています。為替の分の割合など、当メディアが試算したものは本文中にそのつど明記しています。取得日は各raw資料のファイル名のとおりです。)