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賃金の上昇が物価に追いついたらしいけど、本当?

この記事で分かること

  1. ガソリン代と教育費は、大都市と小さな市町村で逆を向く(2024年・二人以上の世帯)
  2. ニュースの「実質賃金+1.4%」が何を表す数字か
  3. 46都道府県では、都道府県の実質賃金を都道府県の統計で見られる

「実質賃金がプラスになった」というニュース、見ましたか?

ニュースの「実質賃金」は、給料が物価に比べてどれだけ伸びたかを表す数字です。+1.4% は「給料の伸びが物価の伸びを上回った」という意味で、給料が1.4%上がったということではありません。

2026年5月(速報)は、給料が +3.2%、消費者物価指数(持ち家の分を除いた物価。2020年基準)が +1.7%、実質賃金が +1.4% でした(いずれも厚生労働省・総務省の公表値)。

2026年5月の伸び率で見れば、給料の伸びが物価の伸びを上回ったのは本当です。

暮らしが楽になった感じがしない、という人もいると思います。

数字と実感がずれる理由として考えられる材料が、少なくとも2つあります。

給料の +3.2% も全国の平均で、人によって違います。①は2節、②は1節で見ます。

②の例です(2024年・二人以上の世帯・都市階級別の平均)。

大都市はガソリンが少なく、教育費が多い。小都市B・町村は、その逆です。ガソリンは年間、教育費は月額の金額です。

※ 買い物かごの中身が平均と違えば、その暮らしの物価の上がり方は、平均より高くも低くもなりえます(推論。統計が測った値ではありません)。

あなたの家のガソリン代と教育費は、二人以上の世帯の全国平均(2024年)より上ですか、下ですか?


1. ガソリン代と教育費は、大都市と小さな市町村で逆を向く

冒頭の2つの数字は、都市階級(大都市/中都市/小都市A/小都市B・町村)の4区分の平均です(2024年・二人以上の世帯)。

ガソリンの年間支出金額 — 都市階級別(円・年間)(品目分類 第4-1表)

都市階級ガソリン年間支出
大都市44,701円
中都市69,996円
小都市A84,283円
小都市B・町村100,908円

全国平均は70,887円。中間の区分も含めて、町村に近いほど連続的に大きくなります。

出典:家計調査 二人以上の世帯 詳細結果表(2024年)品目分類 第4-1表(出典一覧4)

教育費 — 都市階級別(円・月額)(用途分類 第1-1表)

都市階級教育費(月額)
大都市14,597円
中都市12,485円
小都市A9,925円
小都市B・町村7,438円

全国平均は11,703円。ガソリンと向きが逆で、大都市ほど大きくなります。

出典:家計調査 二人以上の世帯 詳細結果表(2024年)用途分類 第1-1表(出典一覧4・脚注1)

支出額は属性で逆を向く(2024年 家計調査・都市階級別)

ガソリンは年間、教育費は月額で単位が違います。見るのは、ガソリンは小都市B・町村寄り、教育費は大都市寄り、という向きです。

都市階級は、大都市=政令指定都市と東京都区部/中都市=それ以外の人口15万以上の市/小都市A=人口5万以上15万未満の市/小都市B・町村=人口5万未満の市と町村(人口は2020年国勢調査時)です。これは二人以上の世帯の4区分の定義で、単身世帯の表(小都市A・B・町村を合算した3区分)とは別です。

あなたの位置は、二人以上の世帯の全国平均(2024年)を物差しに探せます。

世帯のかたちでも変わります。単身世帯の教育費は月9円(単身世帯 第1表)。単身世帯では、教育の物価はほぼ関係しません。なお単身世帯には、高齢の単身と若い単身が混ざっています。

出典:家計調査 単身世帯 詳細結果表(2024年)第1表(出典一覧5)


2. ニュースの「+1.4%」は、どう計算された数字か

ここからは、報じられた数字の側から見ます(2026年5月の賃金と消費者物価指数)。給料は、一人あたり現金給与総額(事業所規模5人以上)の前年同月比 +3.2%(311,165円)です。

2026年7月、こんな見出しが並びました。

実質賃金は、名目賃金指数(給料の指数)を物価指数で割った指数の前年比です(公表値)。毎月勤労統計の実質賃金(主系列)は、消費者物価指数の**「持家の帰属家賃を除く総合」**(持ち家の分を除いて計算した物価)を使います(付表 注2)。消費者物価指数の「総合」で割ると、実質賃金は +1.7% です。2026年5月分(いずれも2020年基準)で並べるとこうです。

割る消費者物価指数(その伸び)実質賃金
消費者物価指数の総合(+1.5%)+1.7%
持家の帰属家賃を除く総合(+1.7%・主系列)+1.4%

出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年5月分結果速報」第1表・付表(参考の消費者物価指数は総務省公表値、注3)。消費者物価指数は2020年基準。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r08/2605p/dl/pdf2605p.pdf

主系列の物価指数は消費者物価指数の総合より伸びが高いぶん、実質賃金は低めに出ます。

+1.4% は、前の年の同じ月と比べた単月・速報の数字です。2026年は、1月 +0.7%・2月 +2.0%・3月 +1.4%・4月 +2.0%・5月 +1.4% と、5月分まで各月プラスでした(5月分速報の時点)。年次では、2023年が −2.5%、2024年が −0.3%、2025年が −1.3% でした。前の年と比べた伸び率だけでは、それまでに下がった分が戻ったかは見えません。

出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年5月分結果速報」付表(2026年1〜5月は前年同月比、年次は年平均前年比。いずれも実質賃金・持家の帰属家賃を除く総合で実質化)。

消費者物価指数の計算では、ガソリンに全体の約1.8%、教育に約3.0%の重みが付いています(2020年基準・全国。1万分比でガソリン182、教育304、うち授業料等213)。全国の物価指数は、全国で1つの指数として作られています。地域別の指数は、別に公表されています(出典一覧9・11)。

出典:総務省統計局「2020年基準消費者物価指数 品目情報一覧」。
https://www.stat.go.jp/data/cpi/2020/kaisetsu/zuhyou/4-1.xlsx


3. あなたの都道府県の実質賃金を見る

都道府県ごとの実質賃金は、46都道府県の統計にあります(1節は街の大きさ別、ここは都道府県別です)。多くは、県庁所在市などの物価指数で割っています。

毎月勤労統計の地方調査(都道府県ごとの毎月勤労統計)は、各都道府県が集計・公表しています(内訳と確かめ方は後半)。見る手順は次のとおりです。

  1. 都道府県のページで「実質賃金指数」の表を開く(現金給与総額・事業所規模5人以上。都道府県によって事業所規模5人以上と30人以上が並びます)。
  2. 前年同月比の列を見る。
  3. 無ければ、同じ月の前年の指数と比べる。

都道府県の数字は、その都道府県の2020年からの変化です。そう割っている都道府県の数字は、同じ都道府県の町村の物価指数とは別の物価指数で割った数字です。都道府県どうしの水準は比べません(詳しくは後半)。

47都道府県のリンク一覧は、後半の出典にあります。


後半(参照用)

参考:2026年6月の消費者物価指数では、授業料等とガソリンが物価の伸びを押し下げている

2026年6月の消費者物価指数(2020年基準)では、授業料等が −0.18ポイント、ガソリンが本系列で −0.15ポイント、全体の伸びを押し下げています。寄与度とは、ある品目が消費者物価指数全体の前年比を何ポイント動かしたかで、本系列は消費者物価指数の公表値そのものです。

出典:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年6月分」(2026-07-24公表)。恒久版はe-Stat(政府統計コード 00200573)。
※ 賃金データは2026年5月分、この寄与の内訳は2026年6月分です。月が違うため、同じ月の数字として合算していません。

押し下げたのは教育のうち「授業料等」(私立高校授業料を含む)で、1節の教育費全体より範囲が狭い区分です。

電気・ガスなど他の政策の寄与と、全政策を合わせてどの世帯がどれだけ得かは、この記事では計算していません。賃上げと物価の鈍化のどちらが実質賃金プラスの主因かを分けた要因分解は、公表統計には見当たりません。内閣府や日本銀行の資料には政策による物価押し下げの試算がありますが、統計の公表値ではなく、機関による分析・試算です。

都道府県の実質賃金:内訳と読み方(2026年9月25〜26日に確認)

47のうち46の都道府県に、実質賃金の表があります。

「当メディアの逆算」の方法は、下の「前提と方法」(物価指数の逆算)にあります。逆算は、都道府県の表の名目賃金指数を実質賃金指数で割って、使われた物価指数を出し、公表されている物価指数と月ごとに照らしたものです(当メディアの計算)。合うことは、都道府県がその物価指数を使ったという都道府県の記載ではありません。

読み方

表で市名を書いた都道府県の物価指数は、県庁所在市など(北海道は道全体、東京都は区部)の物価指数で、同じ都道府県の町村の物価指数とは別です。同じ表に全国の参考値が並ぶ都道府県があります(岩手・山口・高知ほか)。都道府県の列を見てください。月の指数の水準は、月によって大きく動くことがあります。


用語

前提と方法

物価指数の逆算(当メディアの計算、2026年9月26日)

対象:栃木・神奈川・滋賀・京都・長崎・宮崎・鹿児島・青森・鳥取の9都道府県。

断定できないこと


出典一覧

一次資料(統計の公表値・恒久参照)

  1. 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年5月分結果速報」(第1表・付表)
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r08/2605p/dl/pdf2605p.pdf
  2. 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年6月分」(2026-07-24公表)/恒久版:e-Stat 政府統計コード 00200573
  3. 総務省統計局「2020年基準消費者物価指数 品目情報一覧(ウェイト)」
    https://www.stat.go.jp/data/cpi/2020/kaisetsu/zuhyou/4-1.xlsx
  4. 総務省統計局「家計調査(家計収支編)二人以上の世帯 詳細結果表 2024年」品目分類 第4-1表(統計表ID 000040247209)/用途分類 第1-1表(000040247064)
  5. 総務省統計局「家計調査(家計収支編)単身世帯 詳細結果表 2024年」第1表(統計表ID 000040246950)
  6. 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年平均結果の概要」
    https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_gaikyo2024.pdf
  7. 総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2024年 家計調査の概要」Ⅱ(2) 地域区分(p.7)
    https://www.stat.go.jp/data/kakei/2024np/pdf/gaiyou.pdf
  8. 厚生労働省「毎月勤労統計調査(地方調査)」取りまとめページ(都道府県別の表と注)
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1a.html
  9. 総務省統計局「2020年基準消費者物価指数の概要」(都市階級・地方・県庁所在市別の系列を作成)
    https://www.stat.go.jp/data/cpi/2020/kaisetsu/pdf/1.pdf
  10. 47都道府県の毎月勤労統計調査 地方調査(月報・年報)。使われた物価指数・資料・リンクの早見表(2026年9月25〜26日に確認):
都道府県実質賃金の表使われた物価指数(都道府県の資料の記載、または当メディアの逆算)資料(月報・年報・年平均)リンク
北海道あり北海道(道全体)月報・年報一覧
青森県あり青森市(逆算で合う。記載なし)月報・年報一覧
岩手県あり盛岡市月報・年報一覧
宮城県あり仙台市月報・年報一覧
秋田県あり秋田市(月報。年報は地域名の記載なし)月報・年報一覧
山形県あり山形市月報・年報一覧
福島県あり福島市月報資料
茨城県あり水戸市月報一覧
栃木県あり宇都宮市(過去の資料・逆算で合う)月報・年報一覧
群馬県あり前橋市月報・年報一覧
埼玉県ありさいたま市月報・年報一覧
千葉県あり千葉市月報・年報一覧
東京都あり東京都区部月報・年報一覧
神奈川県あり横浜市(過去の資料・逆算で合う)月報・年報一覧
新潟県あり新潟市月報一覧
富山県あり富山市月報・年報一覧
石川県あり金沢市月報・年報一覧
福井県あり福井市月報・年平均一覧
山梨県あり甲府市月報・年平均一覧
長野県あり長野市月報・年平均一覧
岐阜県あり岐阜市月報一覧
静岡県あり静岡市(以前の静岡県の数値は、遡って静岡市に改訂済み)月報一覧
愛知県あり名古屋市月報一覧
三重県あり津市(平成28年1月分から。以前は三重県の数値)月報一覧
滋賀県あり大津市(過去の資料・逆算で合う)月報・年報一覧
京都府あり京都市(過去の資料・逆算で合う)月報一覧
大阪府あり大阪市月報・年報一覧
兵庫県あり神戸市(年報・概要PDFのみ)月報・年報一覧
奈良県あり奈良市月報・年報一覧
和歌山県あり和歌山市月報・年報・年平均一覧
鳥取県あり鳥取市(逆算で合う。物価指数の種類は同県の説明にあるが、地域の記載なし)月報・年報一覧
島根県あり松江市月報・年報一覧
岡山県あり岡山市月報(表紙のみ)・年報一覧
広島県あり広島市月報・年報・年平均一覧
山口県あり山口市(全国の値も並記)月報・年報一覧
徳島県あり徳島市月報・年報一覧
香川県あり高松市(年報の概況PDFのみ)月報・年報一覧
愛媛県あり松山市(愛媛県の説明ページのみ)月報・年平均一覧
高知県あり高知市月報・年報一覧
福岡県あり福岡市月報一覧
佐賀県あり佐賀市月報一覧
長崎県あり長崎市(過去の資料・逆算で合う)月報・年報一覧
熊本県見当たらない—月報・年平均一覧
大分県あり大分市月報・年平均一覧
宮崎県あり宮崎市(過去の資料・逆算で合う)月報・年報一覧
鹿児島県あり鹿児島市(過去の資料・逆算で合う)月報・年報一覧
沖縄県あり那覇市月報・年平均一覧

物価指数の逆算の材料(当メディアの計算に使ったもの)

  1. 総務省統計局 消費者物価指数(2020年基準)地域別 e-Stat 統計表ID 0003427113(県庁所在市・全国・地方。「持家の帰属家賃を除く総合」と「総合」)
  2. 7都道府県の過去の資料(県庁所在市の物価指数の記載)
    • 栃木県:毎月勤労統計調査地方調査『調査の説明』令和3年 p4・令和元年 p4/令和4年確報 p21(第8表の注)
    • 神奈川県:年報 平成29年分 p5・平成30年分 p5・令和元年分 p6・令和2年分 p6
    • 滋賀県:令和4年平均『利用上の注意』p2/令和3年平均 概要 p1/令和2年報 第2章 注4(紙面 p.5)
    • 京都府:京都府統計書 令和2〜6年版 12-3表 注5
    • 長崎県:確報 令和6・5・4・3年(各12頁目)、令和2年・平成31年(各15頁目)、年報 平成30年(15頁目)
    • 宮崎県:年報 令和5・6年 概要 p3/5人以上Excel「第4・5・6表」N3
    • 鹿児島県:年報 令和6年・5年 11頁目(§7(2))

機関による分析・試算(統計の公表値ではない)

  1. 内閣府 経済財政諮問会議 提出資料「消費者物価の動向と経済対策の効果」(2025-12-05)
    https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2025/1205_shiryo01.pdf
  2. 日本銀行「経済・物価情勢の展望」(2026年4月)
    https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor2604b.pdf

報道(冒頭と2節で引用。「どう報じられたか」の裏づけ)

  1. 日本経済新聞「5月の実質賃金1.4%増、5カ月連続プラス 賃上げが波及」(2026-07-07)
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA063TD0W6A700C2000000/
  2. 共同通信配信(nippon.com)「実質賃金5カ月連続プラス 21年以来、5月1.4%」(2026-07-07)
    https://www.nippon.com/ja/news/kd1447007343943090898/
  3. 時事通信「5月実質賃金、5カ月連続プラス 値上げ再燃で、秋以降マイナスも」(2026-07-07)
    https://sp.m.jiji.com/article/show/3817376

世帯属性別の物価指数(統計局の公表値)

  1. 総務省統計局「消費者物価指数の解説」(2025年基準)Ⅲ 3(3) 世帯属性別指数(p.6)
    https://www.stat.go.jp/data/cpi/2025/kaisetsu/pdf/3-5.pdf(取得 2026-10-05。解説は初版〈令和8年7月〉で改訂されうる)/同「消費者物価指数(2025年基準)月報 2026年8月分」第7表 勤労者世帯年間収入五分位階級別中分類指数(月次)e-Stat ファイルID 000040501454:https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040501454&fileKind=0 /同 都市階級別:e-Stat 統計表ID 0003427113(2020年基準)

脚注1:教育費の全国平均値は、詳細結果表(第1-1表)では 11,703円、概況では 11,705円と公表されています(2円差)。本記事は詳細結果表の 11,703円を用います。