貿易統計は赤字なのに、経常収支は黒字? 数えているものが違った
この記事で分かること
- 「経常収支」は、品物の貿易収支のほかに、サービスや投資の収益なども足した合計であること
- 「貿易統計」と「国際収支の貿易収支」は、同じ貿易でも別の統計で、数え方が違うこと。片方が黒字、もう片方が赤字になる年もあること
- 2025年は、投資の収益(第一次所得収支、約41.8兆円の黒字)が、経常収支の黒字(約32.2兆円)より大きかったこと
- 1996年から2025年まで、毎年、貿易統計の数字のほうが、国際収支の貿易収支より小さいこと
2026年9月16日、8月の貿易統計(速報)が出て、輸出と輸入の差は約1.1兆円の赤字でした。そのあと、Xでは、「『円安ホクホク』で一兆円の大赤字」と書いた投稿(引用は投稿の一部)が広く読まれました。同じころ、この投稿への返信には、「貿易の赤字だけ見るのは違う。経常収支は黒字だ」という趣旨のものもありました。
このやりとりを見ると、2つの疑問が浮かびます。2つの数字は、どちらも本当なのか。そして、円安と貿易統計の赤字はどう関係しているのか。この記事では、まず1つ目を確かめます。2つ目は、次の記事で。
貿易統計は赤字で、経常収支は黒字。結局、どちらが本当なのでしょう。2026年8月の貿易統計は、8月の1か月だけで、約1.1兆円の赤字(速報)でした。ところが、2026年1〜6月の経常収支は、6か月の合計で、約17.7兆円の黒字(4〜6月は第2次速報)です。この2つは、統計も期間も違う数字です。
結論:どちらも本当です。でも、数えているものが違います
では、2026年1〜6月の数字を2つ並べます。
- 経常収支:約17.7兆円の黒字
- 貿易統計の、輸出と輸入の差:約1.0兆円の赤字
では、経常収支と貿易統計の数字では、何が違うのでしょう?
経常収支は、貿易収支を含む4つの合計
まず、「国際収支」から説明します。国際収支は、海外との取引(品物・サービス・投資など)をまとめた国の統計です。その中の1つが「経常収支」で、次の4つを足した合計です。株を買ったり、外国の会社を買ったり作ったりするお金そのものは、経常収支には入りません。
- 貿易収支(国際収支の貿易収支):品物の輸出と輸入の差
- サービス収支:輸送や旅行、特許の使用料など、形のないサービスの取引の差
- 第一次所得収支:投資の利子や配当など。日本が外国から受け取った分から、外国に支払った分を引いた額です
- 第二次所得収支:見返りを求めない提供(無償の資金協力、寄付、贈与など)の差です
たとえば、2025年の4つはこうでした。投資の収益(第一次所得収支)は約41.8兆円の黒字でした。一方、貿易収支は約0.6兆円、サービス収支は約3.4兆円、第二次所得収支は約5.6兆円の赤字です。4つを足した経常収支は、約32.2兆円の黒字でした。投資の収益の約41.8兆円は、経常収支の黒字(約32.2兆円)より大きい数字です。ほかの3つが赤字で、合計を小さくしているからです(財務省)。

数字を表で見る
| 2025年(1〜12月) | 額 |
|---|---|
| 貿易収支 | ▲5,677億円 |
| サービス収支 | ▲3兆4,431億円 |
| 第一次所得収支 | +41兆8,201億円 |
| 第二次所得収支 | ▲5兆5,743億円 |
| 経常収支(4つの合計) | +32兆2,350億円 |
出典:財務省「国際収支状況」。2026年4月8日に一部直された数字。単位は億円(▲は赤字)
つまり、経常収支が黒字でも、貿易収支が黒字とは限りません。
この経常収支の黒字は、受け取った分から支払った分を引いた数字です。そのお金が日本に戻っているかは、この記事では扱いません。
品物の輸出と輸入の差も、数字が2つある
違いは、もう1段あります。経常収支の中の貿易収支(国際収支の貿易収支)と、貿易統計は、別の統計です。8月の約1.1兆円の赤字は、貿易統計の数字です。8月の国際収支の貿易収支は、約0.7兆円の赤字でした(速報。10月8日公表)。
では、期間をそろえて、2026年1〜6月で並べます。国際収支の貿易収支は約0.7兆円の黒字、貿易統計の、輸出と輸入の差は約1.0兆円の赤字です。同じ品物の輸出と輸入の差なのに、プラスとマイナスに分かれました。
なぜ分かれるのか。2つは、数え方が3つの点で違います。
- 何を数えるか:貿易統計は、税関を通った品物です。国際収支の貿易収支は、居住者と非居住者の間で、持ち主が変わった品物です
- いつ数えるか:貿易統計は、輸出は船や飛行機が日本を出るとき、輸入は税関の輸入許可が出たときです。国際収支は、持ち主が変わったときです
- 輸入の値段に運賃・保険料を入れるか:貿易統計は入れます。国際収支は入れません(運賃・保険料は、サービス収支のほうで数えます)
ここでの居住者は、国籍ではなく、どこを拠点に活動しているかで決まります。非居住者は、外国を拠点にする人や会社で、日本の会社の海外の子会社や支店も非居住者です(決め方は日本銀行「国際収支関連統計の解説」、運賃・保険料の扱いは財務省「類似統計との相違点」)。
表にまとめると、こうなります。
貿易統計と、国際収支の貿易収支の違い
| 項目 | 貿易統計 | 国際収支の貿易収支 |
|---|---|---|
| 何を数えるか | 税関を通った品物 | 居住者と非居住者の間で、持ち主が変わった品物 |
| いつ数えるか | 輸出は、船や飛行機が日本を出るとき。輸入は、税関の輸入許可が出たとき | 持ち主が変わったとき |
| 輸入の値段に運賃・保険料を入れるか | 入れる | 入れない(運賃・保険料は、サービス収支のほうで数える) |
どの違いが、差をどれだけ生んでいるかは、3つに分けては見られません。日本銀行が、3つの調整をまとめた額で公表しているからです(日本銀行「国際収支関連統計 項目別の計上方法」)。
ただ、2つの食い違いには、こんな傾向があります。国際収支の数字は1996年からしかそろっていないので、1996年から2025年までを比べました。その間、毎年、貿易統計の数字のほうが小さい数字でした(赤字なら大きな赤字、黒字なら小さな黒字)。片方が黒字で、もう片方が赤字になった年もあります(2018年・2019年・2021年。2026年1〜6月も)。2018年は、貿易統計が約1.2兆円の赤字、国際収支の貿易収支が約1.1兆円の黒字でした(財務省の国際収支の年の数字と、関税局の貿易統計の年の数字を、当メディアが並べて比べたもの)。

数字を表で見る
| 年(1〜12月) | 貿易統計(輸出−輸入) | 国際収支の貿易収支 |
|---|---|---|
| 1996年 | 67,379 | 90,346 |
| 1997年 | 99,818 | 123,709 |
| 1998年 | 139,914 | 160,782 |
| 1999年 | 122,795 | 141,370 |
| 2000年 | 107,158 | 126,983 |
| 2001年 | 65,637 | 88,469 |
| 2002年 | 98,814 | 121,211 |
| 2003年 | 101,863 | 124,631 |
| 2004年 | 119,533 | 144,235 |
| 2005年 | 87,072 | 117,712 |
| 2006年 | 79,019 | 110,701 |
| 2007年 | 107,955 | 141,873 |
| 2008年 | 20,633 | 58,031 |
| 2009年 | 26,712 | 53,876 |
| 2010年 | 66,347 | 95,160 |
| 2011年 | ▲25,647 | ▲3,302 |
| 2012年 | ▲69,411 | ▲42,719 |
| 2013年 | ▲114,684 | ▲87,734 |
| 2014年 | ▲128,161 | ▲104,653 |
| 2015年 | ▲27,916 | ▲8,862 |
| 2016年 | 39,938 | 55,176 |
| 2017年 | 29,072 | 49,113 |
| 2018年 | ▲12,246 | 11,265 |
| 2019年 | ▲16,678 | 1,503 |
| 2020年 | 3,883 | 27,779 |
| 2021年 | ▲17,836 | 17,623 |
| 2022年 | ▲203,295 | ▲155,107 |
| 2023年 | ▲95,221 | ▲66,116 |
| 2024年 | ▲56,284 | ▲27,145 |
| 2025年 | ▲29,296 | ▲5,677 |
注:単位は億円(▲は赤字)。貿易統計=関税局。1996〜2024年は確定した数字〔確定〕、2025年は確々報〔確報のあとに直された数字〕。国際収支の貿易収支=財務省。2026年4月8日に一部直された数字。2つは数え方の違う統計です〔財務省〕。片方が黒字でもう片方が赤字だった年は、2018年・2019年・2021年
ここまでで分かったこと
- 経常収支は、貿易収支・サービス収支・第一次所得収支・第二次所得収支の合計です。2025年は、貿易収支が約0.6兆円の赤字で、経常収支は約32.2兆円の黒字でした
- 2025年は、投資の収益(第一次所得収支)が約41.8兆円の黒字で、経常収支の黒字(約32.2兆円)より大きい数字でした
- 貿易統計と、国際収支の貿易収支は別の統計です。1996年から2025年まで、毎年、貿易統計のほうが小さく、片方が黒字でもう片方が赤字になる年もあります
では、円安と、貿易統計の赤字は、どう関係しているのでしょう。次の記事で、数字を見ていきます。
後半(参照用)
言葉
- 経常収支:貿易収支・サービス収支・第一次所得収支・第二次所得収支の合計。2025年は、貿易収支 ▲5,677億円、サービス収支 ▲3兆4,431億円、第一次所得収支 +41兆8,201億円、第二次所得収支 ▲5兆5,743億円で、合計は+32兆2,350億円
- サービス収支:サービス取引の収支。主な項目は、輸送(国際貨物・旅客運賃)、旅行(訪日外国人旅行者・日本人海外旅行者の宿泊費・飲食費など)、金融(証券売買などに係る手数料など)、知的財産権等使用料(特許権・著作権などの使用料)(財務省「用語の解説」)
- 第二次所得収支:居住者と非居住者との間の、対価を伴わない資産の提供に係る収支。官民の無償資金協力、寄付、贈与の受払などを計上します(財務省「用語の解説」)
- 第一次所得収支:海外との間の、投資の収益(利子・配当など)の受取と支払の差。配当されずに会社の中に残った利益のうち投資家の持ち分(再投資収益。投資家にいったん配分され、すぐに再投資されたものとみなして計上されます)も含みます(前半は財務省「用語の解説」、再投資収益は日本銀行 国際収支統計FAQ 17)
- 金融収支:株や債券を買う、外国の会社を買ったり作ったりする、といった資金の動きの差。経常収支には入りません
- 貿易統計:税関を通った品物の輸出と輸入の統計(関税局)
- 国際収支の貿易収支:国際収支統計(財務省・日本銀行)の中の、持ち主が変わった品物の輸出と輸入の差。経常収支の4項目の1つ
2つの統計の違い
財務省「類似統計との相違点」によると、主な違いは次の3つです。
- 輸入の運賃・保険料の扱い(貿易統計は運賃・保険料を含むCIF、国際収支は含まないFOB)
- 数える品物の範囲(税関を通った貨物か、持ち主が変わった財か)
- 数える時点
国際収支統計の今の系列は1996年からです。
前提と方法
- 2026年の数字:貿易統計の8月と、国際収支の8月は速報(最初に出る、あとで直ることがある数字)を含みます
- 本文の2026年1〜6月の数字:経常収支は+17兆7,150億円、国際収支の貿易収支は+6,802億円(財務省。4〜6月は第2次速報)、貿易統計の輸出と輸入の差は▲1兆230億円(関税局。確報)。8月の貿易統計の差は▲1兆1,056億円(速報)、国際収支の貿易収支は▲6,877億円(速報)
- 2025年の貿易統計:確定の前の数字(確々報)で、確定の公表で直ることがあります
- 版と取得日:貿易統計は、2025年=確々報(2026-03-12公表)、2026年1〜6月=確報、8月=速報です。国際収支の4〜6月は第2次速報(2026-10-08公表)。国際収支の暦年の数字は、令和8年4月8日付の改訂後の系列です。取得日は、下の出典の欄のとおりです。関税局の時系列CSVは、毎月ローリングで更新されます
- 国際収支の貿易収支と貿易統計の年の数字の比べ:財務省の国際収支の年の数字と、関税局の貿易統計の年の数字を、当メディアが並べて比べたものです。1996〜2025年の30年すべてで、貿易統計のほうが小さい数字です。片方が黒字でもう片方が赤字の年は、2018年・2019年・2021年です。
- 2018年の2つの数字:貿易統計の輸出と輸入の差は▲1兆2,246億円、国際収支の貿易収支は+1兆1,265億円です(本文の「片方が黒字で、もう片方が赤字」の例)
- この記事の範囲:黒字のお金が日本に戻っているか(再投資収益など)は、この記事の範囲の外です
- 今後動く数字:国際収支の9月分と上期は11月10日、貿易統計の9月分(月分の速報)は10月21日に公表される予定です(財務省の国際収支状況のページ・税関の公表予定表)
断定できないこと
- 2026年8月の確報での修正幅:まだ公表されていません
- どの違いが、貿易統計と国際収支の貿易収支の差をどれだけ生んでいるか:日本銀行は、3つの違い(輸入の運賃・保険料の扱い、数える品物の範囲、数える時点)の調整を、「貿易統計への加算額」と「貿易統計からの控除額」にまとめて公表していて、3つを別々には分けられません。2026年1〜6月で、貿易統計の輸出と輸入の差(▲約1兆230億円)から国際収支の貿易収支(+約6,802億円)までの約1兆7,033億円を、日本銀行の公表項目で分けると、一般商品(日本の居住者と外国の間で持ち主が変わった品物のうち、次の2つ以外)の加算額と控除額の差し引きが約▲1兆4,594億円です。このほかに、仲介貿易(日本の会社が、外国から買った品物を日本に入れないまま別の外国に売ること。売った額と買った額の差を数えます)が+約1兆2,296億円、非貨幣用金(外貨準備として持つ金を除く、金の地金などの取引)が+約1兆9,331億円です(日本銀行の月次系列〔2026年10月8日公表〕と関税局の確報から当メディアが計算)
出典
取得日は2026-09-26です(X の投稿だけ2026-09-27)。ただし、財務省の国際収支(6s-1-1)と日本銀行の月次の時系列は2026-10-08取得(10月8日公表分)です。財務省の CSV と用語のページ、日本銀行の月次の時系列は、公表のたびに最新版に上書きされます(固定のURLがありません)。
- 財務省 国際収支総括表 暦年・半期(6s-1-1) https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/balance_of_payments/bp_trend/bpnet/sbp/s-1/6s-1-1.csv /一覧ページ https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/balance_of_payments/bpnet.htm
- 財務省「用語の解説」 https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/balance_of_payments/term.htm /「類似統計との相違点」 https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/reference/balance_of_payments/difference.html
- 関税局 貿易統計:発表一覧 https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/happyou.htm /時系列 https://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/time.htm /FAQ https://www.customs.go.jp/toukei/sankou/howto/faq.htm /2025年分(確々報) https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2025/2025_117.xml /2026年8月速報の概要(8月の輸出入額) https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/gaiyo2026_08.pdf
- 関税局 貿易統計:公表予定 https://www.customs.go.jp/toukei/calendar/calend.htm
- 日本銀行 国際収支統計 FAQ(17.再投資収益の改訂とは何ですか) https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/faqbpsm6.htm#p6-17
- 日本銀行 国際収支関連統計の解説(居住性) https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/exbpsm6.htm
- 日本銀行「国際収支関連統計 項目別の計上方法」(2026年4月。貿易収支は PDF 8〜12頁:3つの違いの表は9頁、仲介貿易は11頁、非貨幣用金は12頁) https://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/data/exbpsm6.pdf
- 日本銀行 国際収支統計 月次の時系列(2026年10月8日公表分) https://www.stat-search.boj.or.jp/info/bp_m_jp.zip
- 関税局 貿易統計 2026年上半期分(確報。2026年8月28日公表) https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2026/2026_316.xml
- X の投稿(2026年9月17日17:44。取得時点〔2026-09-27〕で再生数 約585万) https://x.com/hirox246/status/2100506275859554353
(数字は当メディアが公表値から集計・計算したものです。取得日は出典の欄のとおり。)