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GDPが増えたのに、自分の給料はなぜ増えた気がしないのか

この記事で分かること

「企業は好景気なのに、なぜ給料が上がらない?」。2026年9月17日に公開されたこの動画は、40万回以上再生されています(ABEMA Prime。10月6日に確認)。GDP が増えた、賃上げが進んだと聞いても、自分の給料が増えた気がしない。そう感じる人もいると思います。

結論

給料をもらう人1人あたりの額面は、5年で増えていました。でも、物価がそれ以上に上がり、買える量は減っています。 給料をもらう人は、会社や役所から給料をもらう人(会社員・公務員・パート・役員など)です。1人あたりの給料は、2019年の約470万円から2024年の約504万円へ、7.2%増えました(会社が払う社会保険料を含みます)。同じ5年に、私たちが買うものの値段は10.0%上がりました。買える量は、次の式で2.6%減った計算です。

買える量の増減 =(1+給料の伸び)÷(1+物価の伸び)−1 (当てはめ:1.0718 ÷ 1.1000 − 1 = −0.0256)

1人あたりの給料(額面)・物価・買える量の、5年後の値(2019年を100とする)。給料107.2、物価110.0、買える量97.4

数字を表で見る
2019年5年後(2024年)
給料(額面)100107.2
物価100110.0
買える量10097.4

注:買える量=給料÷物価。1.0718÷1.1000−1=−0.0256(−2.6%)。国内の1人あたり雇用者報酬、CPI(持家の帰属家賃を除く総合)

GDP が5年で増えた62.4兆円(571.8兆円→634.2兆円)も、約9割(57.1兆円)は、値段が上がった分です。物の量の増えは約5.3兆円でした(値段の上がりを除いた GDP の伸びは0.9%)。以上は内閣府の国民経済計算 2024年度確報の2019年と2024年を使った当メディアの計算で、物価は総務省の消費者物価指数のうち、持ち家の家賃の見積もり(持ち家の人が自分に家賃を払っているとみなした計算上の額)を除く総合です。

では、値段の上がりを除くと、増えた分は誰の取り分になったのでしょうか。

1 給料の総額は26.8兆円増えた。その約8割は、1人あたりの額面の増え

まず、GDP が増えた62.4兆円のうち、給料をもらう人に行った分を見ます。給料(会社が払う社会保険料を含む)の総額は、2019年の284.8兆円から2024年の311.6兆円へ、26.8兆円増えました(国内で働く人の分)。

この増えは、人数の増えと、1人あたりの額面の増えに分けられます。

総額の増え = 人数が増えた分 + 1人あたりが増えた分 26.8 = 6.1 + 20.7(兆円)

給料をもらう人は6,058.6万人から6,184.2万人へ(+2.1%)、1人あたりの給料は+7.2%でした。2019年と2024年のどちらを基準にして分けても、人数の分は約2割、1人あたりの分は約8割です。

1人あたりで見ると、給料は4,700,457円から5,038,026円へ増えました(+7.2%。国内で働く人の給料を、国内の雇用者数で割った額)。会社が払う社会保険料を除いた賃金・俸給だけでも、3,983,301円から4,267,289円へ+7.1%です。会社が払う社会保険料の増えは総額の増えの約16%(4.2兆円)で、1人あたりでも賃金と同じくらいの率(+7.5%)で伸びています。

税と社会保険料を引いた手取りは、本人分だけの統計が無いので、幅で示します。引き方の置き方で+5.8%〜+6.7%です。賃金・俸給の額面(+7.1%)より、手取りの伸びは0.4〜1.3ポイント小さくなります。

内閣府「国民経済計算 2024年度確報」(雇用者報酬、暦年、2019年・2024年)、国税庁「民間給与実態統計調査」令和元年・令和6年。1人あたり・分け方・手取りの幅は当メディアの計算

2 でも、物価が10%上がり、1人あたりで買える量は減った

額面が7.2%増えても、買うものの値段がそれ以上に上がれば、買える量は減ります。2019年から2024年の5年で、私たちが買うものの値段(物価)は10.0%上がりました。冒頭の式のとおり、1人あたりで買える量は2.6%減っています(2024年の5,038,026円は、2019年の値段に直すと約458万円で、2019年の470万円より少ない)。

物価の物差しを替えると、次のとおりです。

物価の物差し5年の上がり1人あたりで買える量の増減
消費者物価指数(持ち家の家賃の見積もりを除く総合)+10.0%−2.6%
消費者物価指数(総合)+8.5%−1.2%
GDP の値段の指数(GDP デフレーター)+9.9%−2.5%
家計が買う物全体の値段の指数(家計最終消費支出デフレーター)+11.7%−4.1%

手取りの幅(+5.8%〜+6.7%)に10.0%の物価の上がりを当てても、買える量は−3.0%〜−3.8%で、減ります。

厚生労働省の毎月勤労統計(5人以上の事業所。賞与などを含む現金給与総額)では、1人あたりの給料は322,552円から347,994円へ+7.9%、同じ物価で見た実質賃金は−1.9%でした。国民経済計算(−2.6%)と幅が約0.7ポイント違うのは、調べる範囲と定義が違うからと考えられます(毎月勤労統計は5人以上の事業所の常用労働者、国民経済計算は役員や公務員、小規模事業所の人を含む全雇用者)。

1人あたりの働く時間も減っています。年間の労働時間は、1人あたり1,696.6時間から1,661.5時間へ−2.1%でした。時間が減った分、1時間あたりの額面は2,771円から3,032円へ+9.4%と、もう少し伸びています。GDP の値段の指数(+9.9%)で見ると、1時間あたりでもほぼ横ばい(−0.4%)です。

給料の総額で見ると、物価の物差しによって増減の向きが分かれるため(詳しくは後半)、この記事は1人あたりで答えます。

内閣府「国民経済計算 2024年度確報」、総務省「消費者物価指数」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」2019年・2024年(年平均)。物価を除いた増減は当メディアの計算

3 GDPの増えた62.4兆円も、約9割は値段が上がった分

GDP も同じ見方ができます。名目 GDP は、2019年の571.8兆円から2024年の634.2兆円へ、62.4兆円増えました(名目=値段の上がりを含む金額)。値段の上がりを除いた GDP(実質)は、579.1兆円から584.5兆円へ、0.9%しか増えていません。実質の額は2020年を基準にした額で、この増えを2019年の値段に直すと5.3兆円です。GDP の値段の指数(GDP デフレーター)は、98.7から108.5へ+9.9%上がりました。

名目 GDP の増え = 量の増え + 値段の上がり 62.4 = 5.3 + 57.1(兆円)

名目GDPの増え62.4兆円の内訳。値段の上がり57.1兆円、量の増え5.3兆円

数字を表で見る
兆円
値段の上がり57.1
量の増え(値段の上がりを除く)5.3
名目GDPの増え(571.8→634.2)62.4

出典:内閣府 国民経済計算(暦年)

量の増えは、数える時点の値段で変わります(2019年の値段で5.3兆円、2024年の値段で5.8兆円)。ここでは出発点の2019年の値段を使いました。

内閣府「国民経済計算 2024年度確報」主要系列表(暦年。名目GDP・実質GDP(連鎖・2020年基準)・GDPデフレーター)。分け方は当メディアの計算

4 値段の上がりを除くと、取り分が増えたのは誰か

先に答えを言います。値段の上がりを除くと、増えた額が大きいのは金融機関と国と自治体、減ったのは会社と、給料をもらう人の総額でした(給料の総額は、物価の物差しによって向きが変わります。下の表の後に書きました)。

「税収は増えているのになぜ生活は楽にならないのか」。2026年3月10日の衆議院財務金融委員会で、田中健議員はこう述べました(国会会議録)。この疑問は国全体の税収についてです。下の表の国と自治体の行(+3.6兆円)は、所得税・社会保険料が入らないので、範囲が違います。入っているのは、生産・輸入品にかかる税(消費税など)と、利子・配当です。

表で分けるのは、GDP の増え62.4兆円から、建物・機械などが古くなった分の見積もりの増え(27.9兆円)と統計上の差(1.3兆円)を引き、海外からの所得の受取超の増え(16.7兆円)を足した49.9兆円(国民所得)です。給料や会社の儲けなど、所得税や社会保険料を引く前の最初の所得(第1次所得)の増えを、受け取る側ごとに分けます。

62.4 − 1.3 − 27.9 + 16.7 = 49.9(兆円)

受け取る側2019年(兆円)2024年(兆円)増えた額(名目)値段を
除いた増減
給料をもらう人284.9311.7+26.8−1.6
自営業の人・持ち家の人など(家計のその他)56.263.0+6.8+1.0
会社(金融・保険を除く)54.956.5+1.6−3.5
金融機関9.115.4+6.3+4.9
国と自治体(公的年金・雇用保険などの会計を含む)42.951.2+8.3+3.6
非営利団体(私立学校・労働組合など)0.30.6+0.2+0.2
合計448.4498.3+49.9+4.6

値段の上がりを除いた、受け取る側ごとの取り分の増減(2019年から2024年、兆円)。金融機関+4.9、国と自治体+3.6、自営業の人・持ち家の人など+1.0、給料をもらう人−1.6、会社−3.5、非営利団体+0.2

値段の上がり(10.0%)は、節2 の物価(消費者物価指数のうち持ち家の家賃の見積もりを除く総合)です。値段の上がりを除いた増減は、2024年の額を1.10で割って2019年の値段に直した額から、2019年の額を引いた値です。各行も四捨五入のため、表の数字から計算すると0.1ずれることがあります(名目の増えを足すと50.0になりますが、合計は49.9です)。

給料をもらう人の−1.6兆円は総額です。1人あたりでは、物価の物差しを替えても減っていました(節2)。総額では、人数が2.1%増えているため、物差しによって向きが変わります(消費者物価指数の総合〔+8.5%〕なら+2.4兆円)。会社の−3.5兆円、金融機関の+4.9兆円、国と自治体の+3.6兆円は、GDP の値段の指数(+9.9%)で割っても同じ向きです。

国と自治体の名目の増え+8.3兆円の中身は、次のとおりです。

内訳2019年2024年増え(兆円)
生産・輸入品にかかる税46.455.2+8.8
 うち付加価値型税(消費税・地方消費税などに当たる)23.031.1+8.1
補助金(払う分。差し引く)3.17.3−4.2
利子・配当などの受取から支払を引いた分−0.4+3.3+3.7
合計+8.3

付加価値型税は、内閣府の説明で「消費税や地方消費税等」とされています。国民経済計算の表では、2019年10月の税率の引上げ(8%→10%)の分と、値段・売上の増えの分は区分されていません。

補助金が4.2兆円増えて、税の増えの約半分を打ち消しています。補助金の増えの中身は、同じ内閣府の年度の表(機能別の支出)で見ると、2019年度3.1兆円→2024年度7.1兆円(+4.0兆円)のうち、「燃料・エネルギー」が0.2兆円→3.2兆円(+3.0兆円)で、増えの4分の3を占めます。次に「鉱業、製造業、建設」が+0.7兆円、「保健」が+0.2兆円です。年度の表のため、暦年の4.2兆円とは数字が少し違います。

利子・配当などの受取から支払を引いた分の増えは、約9割が利子です。受け取る利子が約2.9兆円増え、払う利子が約0.4兆円減りました。

会社の−3.5兆円は、建物・機械・ソフトウェアなどが使って古くなった分の見積もり(固定資本減耗)を引いた後の値です。この見積もりは、2019年から2024年に約20兆円増えました。引く前の会社の取り分は148.4兆円から169.7兆円へ増えていて、値段の上がり(10.0%)を除いても増えています。冒頭の「企業は好景気なのに」に当てはめると、古くなった分を引く前は増え、引いた後は減った、という形です。

金融機関は、2019年の9.1兆円が15.4兆円へ、名目で+69%(+6.3兆円)増えました。内訳は、受取から支払を引いた額で、大きいのは配当など(法人企業の分配所得)の+5.0兆円と、国内の仕事から生まれた儲け(営業余剰〔純〕)の+3.8兆円です。ほかの項目を合わせると−2.5兆円で、8.8 − 2.5 = 6.3兆円になります(項目ごとの額は後半)。

内閣府「国民経済計算 2024年度確報」部門別の第1次所得の配分勘定、一国の第1次所得バランス、海外勘定(暦年・名目)、内閣府 国民経済計算 用語解説。当メディアの計算

5 自分の給料を、物価と比べる

5年で物価が10.0%上がったので、給料が同じ5年に10.0%以上増えていれば、買える量は減っていません。冒頭の式に、実際の年収を当てはめられます。

2019年の年収買える量が減らない2024年の年収(×1.10)
300万円330万円
400万円440万円
500万円550万円
600万円660万円

比べるのは伸びの率(×1.10)で、額ではありません。冒頭の470万円には、源泉徴収票の年収に入らない会社負担の保険料も入っています。ここまでの数字は国全体の平均で、1人ひとりの給料の増減は違います。

「GDP が増えた」「賃上げが進んだ」というニュースは、同じ期間の物価の上がりと並べて読めます。賃上げの率は、同じ期間の物価の上がりを上回っているかで、買える量が増えたかが分かります。

給与明細や源泉徴収票が手元にあれば、2019年と2024年の年収を並べて、2024年が2019年の1.10倍以上かを見てください。手元に無いときは、毎月勤労統計の平均(額面+7.9%、買える量−1.9%)が目安です。

後半(参照用)

用語

前提と方法

金融機関の内訳(節4)

金融機関の第1次所得(純)の増え+6.3兆円を、受取から支払を引いた項目に分けた表です(暦年・兆円)。

項目2019年2024年増え
営業余剰(純)9.2813.04+3.76
法人企業の分配所得(配当など。うち配当は+4.92)7.1712.21+5.04
海外直接投資に関する再投資収益0.962.17+1.21
利子(統計の整理後)2.120.71−1.41
保険・年金・投資信託の加入者に帰属させる分(支払)−10.24−12.58−2.34
賃貸料−0.15−0.150.00
合計(第1次所得バランス〔純〕)9.1415.41+6.27

利子は、統計の整理(FISIM の調整)後の値です。調整前の利子の受取−支払は15.6兆円→16.5兆円(+0.9兆円)で、向きが逆になります。なぜ増えたかは、この表から分かりません。出所は、内閣府 国民経済計算 2024年度確報の金融機関の第1次所得の配分勘定(暦年)です。

言い切れないこと

出典

内閣府 経済社会総合研究所「国民経済計算 2024年度確報」(2020年基準・暦年・名目)。数字ごとに、使った表(Excel)は次のとおりです(確報の一覧)。

その他の統計:

節4「言い切れないこと」の資料:

そのほか: